「薄暑(はくしょ)」は初夏の頃のやや汗ばむほどの暑さのこと。大正3年の『俳句季寄せ』が初出といわれ、比較的新しい季語。「軽暖(けいだん)」は「薄暑」の傍題。「薄暑」「軽暖」はほぼ同じ意味だが、言葉のニュアンスは若干異なる。「薄暑」には、やや汗ばむ暑さの中に身を置く軽い倦怠感がある。一方、「軽暖」には、身も心も軽くなる夏という季節を迎える喜びがある。夏を迎えた木々は緑を深め、日差しも眩しくなり、屋外で過ごすことも多くなる。
薄暑はや日蔭うれしき屋形船 虚子 軽暖の日かげよし且つ日向よし 〃
手元の歳時記の例句は、この2句に始まっている。いずれも『六百句』所収。同句集は昭和11年から15年までの作品を収める。中でも、「軽暖」の句は初夏の頃の季節感をさらりと捉えて卓抜だ。いかにも虚子らしい一句といえる。「薄暑」「軽暖」は、こうした虚子の句を通して定着していったのだろう。
初夏の頃の季節感の明暗を捉えた言葉として、「薄暑」「軽暖」を使い分けながら今後も作句していきたい。