蟹のことなど

俳句で単に「蟹(かに)」(夏季)といえば、山や川、磯にいる沢蟹や磯蟹などの小蟹のこと。沢蟹などは夏料理の涼感の演出に用いられたり、から揚げにして食したりすることもあるが、一般的には食用ではない。                            わが行けば道のさきざき蟹よぎる 誓子                    の作があるように、山住みの人にも海辺に住む人にも親しまれている小動物。古俳諧にも作例がある。

一方、食用になる蟹についてみると、ずわい蟹や鱈場蟹は、身が締まって美味になる冬季が旬で、冬の季語。また、ワタリガニの別名をもつ蝤蛑(がざみ)は産卵期の春から初夏が旬で、夏の季語。

毛蟹は四季を通して水揚げされるので季節感に乏しく、歳時記には掲載されていない。 毛蟹の中でもオホーツク海で流氷が去る春先に獲れる若ガニは、夏から秋にかけて身入りが良くカニミソも楽しめる堅(かた)ガニと呼ばれるものになる。一般的に好まれるのは堅ガニだが、殻が柔らかく、身に甘みがある若ガニを好む人もいるという。また、冬から年末には、寒さから身を守るために脂乗りが良くなるので、毛蟹の旬は冬ともいわれる。

冬の味覚の代表のように言われるずわい蟹や鱈場蟹だが、手元の歳時記の作例を見ると、これという作品は一句もない。これらの蟹を前にすると、誰もが口腹を満たすことに専らになってしまうためだろうか。


コメントを残す