ヨーロッパ原産のサクラソウ科サクラソウ属の多年草。プリムラ・ポリアンサ、プリムラ・ジュリアンなど多くの園芸品種が作られている。冬から春にかけて開花する。赤、ピンク、黄、白、紫、青、臙脂、複色など花色は多様。俳句では「桜草」の傍題。「桜草」が日本原産の多年草であるのに対し、「プリムラ」は西洋種。

「水温む」は、寒さが去って、川、湖、池などの水が温かくなること。水草が芽を出し、水底に潜んでいた魚がうごきだす。
掲句は「キューピー」の手足が短いとの発見を、折りからの春暖の季節感の中で詠んだ作品。「キューピー」は言うまでもなく、ローマ神話に出てくる恋愛の神キューピッドを幼児体形につくったマスコット人形。頭のとがった裸体の童形で、背中に小さな羽がはえている。「キューピー」の愛らしい形は、ものの命がうごきだす春の季節感とぴたりと照応する。「水温む」は、春到来の気分を具象化する季語として的確に選び取られた。草木虫魚とともに、「キューピー」にも瑞々しい命が宿っているような錯覚を覚えさせる。『俳句』2025年3月号。
スズキ目アジ科の硬骨魚。鰹、石鯛、鯖、鯵など夏に獲れる魚(夏魚)のひとつ。「間八」とも表記する。大きいものは体長2メートルに達する。ブリに似るが体色は赤紫色、体形は太くて短い。背びれ前方から斜めに顔をよぎる黒褐色の帯があり、上から見ると「八」の字状であることからこの名がある。回遊性の大型魚で、最近では盛んに養殖されている。漁期は夏だが、養殖物が通年入荷してくるので季節感は薄れている。鮨の種や刺身にする。

ラン科ハクサンチドリ属の多年草。「羽蝶蘭」「岩蘭」「有馬蘭」などの別名がある。日本の山野に自生する。晩夏の頃、茎の先に白又は紫の花をつける。ただし、現在ではラン科コチョウラン属の常緑性多年草である洋蘭(下の写真)を指す場合が多い。こちらは熱帯アジア原産の常緑多年草で、明治時代中期にイギリスから移入された。花の豪華さから、贈答用の高級園芸植物として利用されている。温室で栽培され、年間を通して売られているため季節感には乏しい。なお、俳句で単に「蘭」といえば主として東洋蘭を指し、秋の季語。ラン科の草花としては、このほか「春蘭」(春季)、「鷺草」(夏季)、「カトレア」(冬季)、「寒蘭」(冬季)などがある。

旧暦2月15日は釈迦が沙羅双樹の下に入滅した日とされ、寺院では新暦の2月15日又は3月15日に涅槃会(ねはんえ)が執り行われる。当日は涅槃図を掲げて法要を営む。涅槃図は、沙羅双樹のもとに横臥した釈迦のまわりを、嘆き悲しむ弟子や動物たちが取り囲んだ図。
掲句は眼前の涅槃図を眺めながら、境内にいた鶯が、笹鳴きのまま涅槃図中の動物たちの中に加わることを想像しての作。まだ春の寒さの残る時季で、鶯はチャッ、チャッという冬の地鳴き(笹鳴き)のままだった。「笹鳴のまま」の措辞に、薄ら寒いその頃の季節感と、若干の諧謔味を効かせたつもりである。平成17年作。『春霙』所収。