冬の海鉄塊狂ひなく沈む 龍太
「俳句研究」平成4年1月号。句集『遅速』以降の作品。
「冬の海」は、寒風が吹き荒び、荒波が押し寄せて荒涼としている。太平洋側では、比較的凪いで陽光の眩しい日もあるが、沖合はうねりが大きく荒々しいことが多い。
掲句は暗くうねる「冬の海」に「鉄塊」が狂いなく沈んでゆくところを詠んだ。「鉄塊」は文字どおり鉄のかたまりだが、この句では、それが何であるかを問う必要はないだろう。不用になった金床や機械のようなものであっても、屑鉄のかたまりなどであっても構わない。それは兎も角、重量感のある「鉄塊」がクレーンに吊るされて、暗くうねる冬の海にゆっくりと真っ直ぐに沈んでいく。それはわずかな狂いもなく正確に所定の場所に沈められていくのだ。そして、沈められた鉄塊は、もう海面上に現れることはない。その非情さが「冬の海」の暗澹としたイメージを際立たせる。龍太の句としては異色の一句だ。