龍太の句を拾う(10)

冬帝が五湖ことごとく瞰てゐたり 龍太

「雲母」平成4年3月号。句集『遅速』刊行後に作られた作品。

「冬帝(とうてい)」は寒さの厳しい冬を擬人化した言葉で、冬を司る神の意。「五湖」といえば知床五湖、三方五湖などもあるが、ここでは富士五湖を念頭に置きたい。富士の裾野に点在する河口湖や山中湖、本栖湖などを上空から冬帝が見ているとの句意。「瞰(み)る」には、「俯瞰」という言葉があるように、高い所から広い範囲を見下ろして眺める意味合いがある。一読、晴れわたった空のもと、深々と紺碧の水を湛えた五つの湖が見えてくる。われわれ読者も、冬帝とともに上空に漂っているような錯覚を覚える。老境に入ってからの作品だが、そのとらわれない自由な発想には驚かされる。


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