龍太の句を拾う(3)

春の山幼な蛇笏を見てゐたり 龍太

「雲母」昭和60年5月号に発表された作品。

掲句には「生誕百年」との前書きがある。蛇笏の生まれは明治18年4月26日。春も深まり、明るい光と温かな空気に包まれて、ものの命に溢れている山。その山が産衣に包まれた赤子の蛇笏を見ているとの句意だろう。想像の中で、100年前に遡って蛇笏生誕に立ち会えるのも詩人の特権だ。この句は100年前に遡り、今眼前にある春の山が、今と同じように柔らかな眼差しを、人々の生活に注いでいるさまを思い浮かべている。その山は

露の夜は山が隣家のごとくあり 龍太

と詠んだ山でもある。ほのぼのとした味わいのある句だが、句集には収めていない。作品として普遍性に乏しいことを考慮したためだろうか。

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