龍太の句を拾う(2)

春寒しいまはの際の国ひとつ 龍太

「雲母」平成3年3月号に発表された作品。

「春寒」は早春の頃の寒さのこと。春に半ばは心を寄せていながらも、相変わらず続く寒さ。掲句は春なお寒さの残る中で、「いまはの際の国」の滅びゆくさまを、遠国の一国民として見守っているとの意だろう。当時、ソビエト連邦は多くの共和国から構成されていたが、1991年末、いくつかの共和国が脱退し、中央集権体制が崩壊した。ソ連の崩壊は冷戦の終わりを告げた事件だったが、その後旧ソ連の国々の間で紛争が絶えないことは周知のこと。

山梨の山中に住みながら、当時の国際情勢に無関心ではいられなかった龍太の心の内が窺える作品だ。といっても、この句は句集には収められていない。確かに「いまはの国」と言われても、三十年後の読者には余りピンとこない。時事問題を詠んだ句が陳腐化しやすいことを、龍太は承知していたのかも知れない。


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