龍太の句を拾う(1)

古茶の木咲いてこの世を見てゐたり 龍太

「雲母」昭和61年12月号に発表され、飯田龍太最後の句集『遅速』からは漏れた作品。茶の花のもつひっそりと咲いて散っていく密やかなイメージとともに、この花の親しみやすさ、懐かしさがよく表れている。作者の生活の傍らに昔から咲いて、それとなく「この世」を見ている茶の花。作者自身も、茶の花にそれとなく見られていることを意識しているのだ。

句集に収められている「茶の花」の句は

茶の花をときに伏眼の香と思ふ 龍太(『遅速』所収)

など全部で4句あるが、掲句は「茶の花」の本情を深いところで摑んでいて捨てがたい味わいがある。この句を句集に収めなかったのは、擬人法を安易に用いたくないとの思いからだろうか。


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