椎はブナ科シイ属とマテバシイ属に属する樹木。椎の実には小粒の球形とやや大振りな細長の二種があり、炒ると香ばしく甘い。古く縄文の頃より親しまれてきた。「椎落つ」は椎の実が落ちること。
掲句は武蔵国分寺の薬師堂の裏手の千体仏を詠んだもの。佇んでいると、折々椎の木が実を落とした。建武2年新田義貞の寄進による建立と伝られるお堂の裏手は、時が止まったような静寂が辺りを占めていた。千体仏の中には、ほとんど摩耗して原形をとどめないものや元の顔かたちを比較的とどめているものなどがあった。平成18年作。『春霙』所収。