「案山子(かがし)」は竹や藁を材料に人の形を作り、蓑笠を着せ田畑の中に立てて鳥獣を威し、その害を防いだ。最近ではいろいろなキャラクタ-が案山子として登場し、稲刈りが済んだ田圃では案山子祭が行われて賑わう地域もある。
掲句は秩父郡横瀬町にある寺坂棚田を訪れたときの作品。折から稲刈りの時期で、既に刈り取られた田圃と黄金色に稔った田圃がほぼ半々だった。330枚ほどもある棚田のところどころに案山子が立っていて、ふと案山子の襷に赤い文字で書かれた「祝婚」の2字が目に入った。この地で稲作に従事している青年たちの中に、この秋、皆から祝福されて結婚する人がいるのだろう。その青年の幸福や周りの人たちの祝意が、豊作の光景とともに暖かい湯気のように私の心を包んだ。平成28年作。