蟋蟀(こおろぎ)は直翅目コオロギ科の昆虫。初秋の頃から鳴き始め、秋が深まるにつれて鳴き細っていく。蟋蟀の中でも、綴刺蟋蟀(つづれさせこおろぎ)は畑や人家の庭などでリーリーと鳴く。
掲句は平成11年9月に逝去した父を詠んだもの。息を引き取ってから葬儀までの3日間、いつも寝室として使っていたひと間に、父は寝かされていた。苦渋の後をとどめない寝顔のような死顔だったが、再び目を開けることはなかった。今でも家の周りで蟋蟀が鳴き出す季節になると、そのときのことが思い出される。平成11年作。『河岸段丘』所収。