「烏蝶(からすちょう)」は黒地に緑の光沢をもつカラスアゲハのことで、夏に見かけることが多いことから、他の揚羽蝶とともに夏の季語になっている。
掲句は、清瀬中央公園の石田波郷句碑を訪れたときの作品。この公園は、波郷が戦後の一時期療養生活を送った国立療養所清瀬病院の敷地であった。今でも木立の多い公園内を散歩すると、行く手に病衣を着た波郷の姿が見え隠れするような錯覚に囚われる。〈七夕竹惜命の文字隠れなし〉〈遠く病めば銀河は長し清瀬村〉の句が刻まれている句碑の前にしばらく佇んだ。その場を立ち去り難かったのは「烏蝶」というよりも、私自身であったのかも知れない。令和3年作。
