「囀(さえずり)」は、春になって繁殖期を迎えた小鳥たちの、求愛や縄張りを知らせる鳴き声。冬の間は地鳴きと呼ばれる短い鳴き声を発するだけだった小鳥たちが、春になると、高い梢などに姿を見せて囀り始める。
掲句は、日常のさり気ない動作を詠んで、春到来の気分を感じさせる作品。皿に残った魚肉のソースなどをパンで拭って食べることは、気の置けない家での食事の際にはよくあることだ。健康な食欲、無駄を出さない倹しい生活ぶりなどを想像させる動作だが、「囀」と取り合わせると、小鳥の声がとどく春の朝の明るい食卓風景が浮かび上がる。日常の何気ない動作も句の素材になることを、この句は教えてくれる。『俳句』2024年3月号。



