「春動く」は、「春めく」の傍題。立春を過ぎてしばらく経つと、春らしくなってきたと感じる瞬間がある。冬の間、土中や水中などでひっそり静まり返っていた生き物たちがいよいよ動き出す。
掲句は、「殻」や「繭」の中で動き出す春を詠む。生き物の「殻」としては、鳥などの卵の殻を想像したい。また、「繭」といえば絹糸の原料となる蚕の繭(春季)を思い浮かべるが、ここでは蚕の繭に限定せずに、より一般的に、昆虫の幼虫が蛹(さなぎ)になるときにつくる殻状または袋状の覆い(繭)を想定したい。生き物たちの営みが始まる春先の、静から動への季の移ろいが的確に捉えられている。『俳句』2023年5月号より。


