山の雨火蛾に琥珀の眼あり

蛾の多くは夜行性で、夏の夜の灯火を飛び回るので、「火蛾」「火取虫」などと呼ばれる。日本に生息するチョウ目の昆虫6000種のうち、「チョウ」と呼ばれるものは250種類で、他はすべて「ガ」であるという。「火蛾」といえば、速水御舟の日本画『炎舞』に描かれている、炎とともに舞い狂う蛾の姿が思い浮かぶ。

掲句は、山中の旅館の窓越しに見た「火蛾」が契機になってできた作品。その日は生憎の雨で、窓を打ったり、じっと張り付いたりしている蛾の後ろに、深々と山国の闇が下りてきていた。平成5年作。『河岸段丘』所収。


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