冬の寒気が去ると、氷っていた水は解け出して、日差しの中をきらめきながら流れる。早春の頃の水には刺すような冷たさがあるが、春が深まるにつれて温んできて、諸々の命を育む「春の水」となる。


冬の寒気が去ると、氷っていた水は解け出して、日差しの中をきらめきながら流れる。早春の頃の水には刺すような冷たさがあるが、春が深まるにつれて温んできて、諸々の命を育む「春の水」となる。


「春愁」は、生気のあふれる春の最中に感じるそこはかとない愁いのこと。個人的には、年齢を重ねるにつれて、春という季節の溌溂とした生気に、自分の心と身体が追い付かないことから、軽い違和感や物憂さを感じることが増えているが、そんな感覚も「春愁」といえるのだろう。
掲句は、「春愁」のフラミンゴを詠んだ作品。フラミンゴは西アジアなどに野生として生息しているが、動物園で飼育されているお馴染みの水鳥だ。そのフラミンゴが見物の人々の前で、長い首を曲げて嘴を羽に埋めているのだ。檻の中での生活に退屈しているようにも、また、眠気を感じているようにも見える情景だが、作者はそこに「春愁」を感じ取った。それは、作者自身が自らに感じている「春愁」の反映でもあるだろう。春の日中の、余りひと気のない動物園の物憂い感じが表れている。『うろこ雲』所収。
手元の歳時記では「鳥の巣」「鷹の巣」は春の季語、「巣立鳥」「巣立」は初夏の季語になっている。掲句の「雀鷹育つ」は、巣立つ前の雀鷹の雛鳥を詠んだものなので、「鷹の巣」の傍題と考えたい。
雀鷹は、日本のタカ類で最小の鳥。雌は30センチ程で、雄は雌より少し小さい。関東近辺では3~4月に南方から渡ってきて低山の林で繁殖し、主に小鳥を捕食する。住まいの近くを散策していると、雑木林の中の道を通るたびに、この鳥の声を耳にした。春も深まった頃で、営巣の真っ最中だったのだろう。櫟や小楢は一斉に芽吹くと、ぐんぐん葉を広げて日に日に林の中は暗くなっていった。令和3年作。
日本や東アジアの沼沢地に自生するアヤメ科の多年草。観賞用にも栽培される。葉は剣状で中央脈がなく、花茎は分枝せずに頂に濃紫色の花を咲かせる。花期は5、6月頃。花の姿が飛燕を思わせるところから「燕子花」と書くが、「杜若」との表記もよく見掛ける。

山野に自生するシソ科の多年草。高さは20~30センチ程。初夏に、茎の先端近いところに唇のような形をした白や紫色の花をつける。名前の由来は、一茎の花が同じ方向を向いて咲き、打ち寄せてくる波頭のようにみえることから名づけられたという。種を蒔いた訳でもないのに、庭先や路傍に咲いているのを見掛ける。繁殖力が強いのだろう。
