春になると、肌に触れる風の感触が変わってくる。冬の間に吹く北風の尖った感じとは異なり、どことなく人に優しく触れてくる風に、春の到来を実感する。陽の光も強くなり、風が光ると感じられる瞬間が確かにある。
掲句は、「点睛の一語」を見出した表現者としてのささやかな幸福感を句にしたもの。俳句を作り続けていると、一通りできているが、どこか物足らない作品ができることがあり、決め手になる核心の一語が定まると、句が、見違えるように精彩を帯びてくることがある。「点睛の一語」は、そのことを言ったもの。折りから、春の柔らかい風が、五体を吹き過ぎて行った。平成19年作。『春霙』より。
