単に「鵙」といえば秋の季語だが、春の営巣期に雌に求愛する鵙は、天地に向かってやさしく呼びかけるような声で鳴く。秋晴れの澄みわたった大気を貫く鵙の声とは趣が異なる。秋の高鳴きは鵙の縄張り宣言であり、越冬して春になると、自らの縄張りに留まったまま営巣期・繁殖期に入っていく。
郊外で、風の彼方にやさしく呟くような「春の鵙」の声を聞いて、春の訪れを感じたことが契機になってできた一句。冬の間は天地も風も草木も、それぞれ孤立して厳しい様相を呈していたのだが、いつしか、自然の万物も人間も相互に親しみ合う季節に入ったのだと思った。平成25年作。